【海外で子育て】「横浜市初の外国人向けプレスクール開設」から考える就学前の準備
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2017年度に横浜市が外国人向けのプレスクールの開設を予定しているそうです。
外国人向けのプレスクール、なぜ必要なの?
と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
今回はこの、外国人向けのプレスクールの役割についてお話ししたいと思います。
日本で子育てをする外国人家庭で育つ子どもの環境は、海外で子育てをする日本人家庭の子どもの環境にも重なります。
ですので、日本の外国人向けプレスクールで実施する内容や教育の視点は、海外で子育てするにあたっての参考にもなると思います。
アメリカで子育てする予定の私も他人事ではありません。
というわけで、海外在住者も必見です。
横浜市が外国人向けプレスクールを開設予定
12月2日の神奈川新聞の記事に、横浜市が外国につながる子ども向けのプレスクールを2017年度開設の予定で準備をしているとありました。
<記事はこちら↓>
日本にいた頃、外国につながる子どもたちの教育支援に携わっていた者として、このニュースをとても嬉しく思いました。
実は、私がまだNPOの事務局にいた2010年頃に、この「外国につながる子ども向けのプレスクール」の可能性、そして必要性について注目しており、横浜市内の自治体と協力して、単発でプレスクールを企画したこともありました。
あれから数年、ついに、横浜市が外国につながる子ども向けのプレスクールを開設予定!
自分も注目していただけに、本当に嬉しいニュースです。
外国で子育てするということ
さて、外国につながる子どもたちの教育環境に詳しい人でなかったら、
なぜ外国人に特化したプレスクールが必要なの???
と不思議に思う人も多いかもしれません。
簡単にいうと、子どもが日本の学校に入るにあたっての「言葉の準備」、「勉強の準備」、「心の準備」ができていないことが多いからです。
これは、親の母語が日本語でないこと、そして親自身が日本の学校に通ったことがないために起こります。
日本の学校に通ったことのない親にとって、日本の学校は未知の世界。
そんな、日本の学校の右も左もわからない親にとっては、日本育ちの親たちと同じように、子どもが日本の学校に入学するにあたっての準備を整えておくのは、けっこうなハードルなのです。
この状況は、海外に住む日本育ちの親が、家庭内で日本語で育てている子どもを現地の学校に通わせる状況に似ているのではないでしょうか。
私もアメリカで子育てをすることになった場合、同じような状況になると思います。アメリカの学校のしきたりも分からない。勉強のスタイルも分からない。そもそもどのレベルから勉強がはじまるのかも分からない。
経験したことがないだけに、何も想像がつきません。
幸いなことに、英語が読めるのである程度情報収集をして備えておくことはできます。
では、何をどう準備したらいいの?
という点で、この日本の「外国につながる子ども向けのプレスクール」の活動がヒントになるのではないかなと思いました。
次に、外国につながる子どもたちのためのプレスクールがどういった役割を担うのか、「言葉の準備」、「勉強の準備」「心の準備」という3点をから、もう少し具体的に紹介したいと思います。
言葉の準備
まずは言葉の準備という点から。
<親の母語で育つ子どもたち>
日本に住む外国人の家庭では、家庭内では親の母語のみで子育てしている家庭が多くあります。親と子どもが一番スムーズにコミュニケーションのとれる言葉なので、家の中が親の母語のみとなるのは自然なことですよね。
すると、子どもは、小学校に入るまで限られた量の日本語にしか触れることがありません。日本の幼稚園や保育園に通っている場合、少しは日本語が話せるようになる子どももいるかもしれません。一方、親の母語で子どもを預けられるような外国人向けの託児所に入れていた場合、子どもの日本語力はゼロに近いでしょう。
海外在住の日本人家庭でも、子どもに日本語を身につけさせるために、家の中では日本語のみという話しをよく聞くことがあります。アメリカであれば、一歩外に出れば全て英語。学校が始まれば必然的に英語が身につくので、家では日本語をしっかり教えようと。
学校の言語とは異なる言語で子育てをするというのは、日本にかぎらずどこの国でも、親が自分の出身国ではない国で子育てをする場合によくある状況なのかもしれません。
<日本語指導>
というわけで、外国人向けのプレスクールでは、まずは日本語を教えることが必要になります。
小学1年生はみんな初めての学校で、初めてのお勉強。お勉強だって一から始めるわけだからそんなに気にしなくても周りについてこれるのでは?と思うかもしれませんが。。。小学1年生といえど、まわりは生まれてから6年間、ずっと日本語習得に時間をかけてきた子どもたち。
そして、日本語の基礎ができた上で始まるのが小学校の教育です。
ひらがなの書き方を覚えるのも、数を1から10まで書けるようになるのも、日本語ができるからこそ。
日本語がわからない状況で突然小学1年生のクラスにはいると、先生の言っていることがわからないので、日本語の理解が進むまで、学習が周りの子より遅れてしまいます。
さらには、日本語ができないとクラスのお友達とコミュニケーションをとることもままなりません。
小学1年生は初めての学校でドキドキなのに、さらに、誰ともうまくコミュニケーションがとれなかったらとっても心細いですよね。それだけで、学校に行くことが辛くなってしまう可能性もあります。
なので、まずは、学校で心細い思いをしないためにも日本語を教える必要があります。
勉強の準備
<話し言葉から読み書きへ>
日本の子どもたちが小学校にはいるまでに身につけている日本語は、ただ日本語をしゃべれるというレベルではありません。
たしかに、小学校は「あいうえお」の書き方から教えてくれますが、多くの子どもたちは小学校に入る前に、すでに多くの日本語の文字に触れています。ほとんどの子どもが平仮名をある程度読める状態ではないでしょうか。
お家では、喋り始めるようになるころから、絵本の読み聞かせをしますよね?
言葉の少ない絵本から初めて、少しずつ言葉の量を増やしていって、小学校に入るころには自分でも読めるようになっている子もいます。
「おもちゃ」の中にも平仮名が書かれたもの(積み木やパズルなど)があって、遊びの中で平仮名を少しずつ身につけていく子も多いでしょう。
自分の名前ぐらい書けるようになっている子もいます。
しかし、親が日本語の読み書きができなかった場合、日本人家庭の子どもと同じように日本語の絵本 の読み聞かせをすることはできません。遊びの中で子どもが平仮名を覚えるという経験も限られています。
ですので、日本人の親が家庭でやっているような読み書きへの導入を、日本語のできない親に代わって、プレスクールで担う必要があります。
また、外国人の親たちにも、日本の子どもたちが小学校に入るまでにどのような形で日本語の文字に触れているかを知ってもらい、できる範囲で家庭で工夫してもらうことも重要です。たとえば、NHKの教育テレビなんかでも平仮名に触れるような番組はあります。テレビであれば見るだけなので、親が日本語ができなくても問題ありません。
<学校用語になれる>
学校で勉強を進めるには、学校用語に慣れることも大事です。
学校でのサバイバル日本語。
日本の幼稚園や保育園に通ったりして、ある程度日本語がしゃべれるような子どもでも、学校で使われている日本語には慣れていないことがあります。
例えば、「起立」「気をつけ」「礼」「着席」、
日本の家庭だと小学校に入る前に、「先生がこう言ったら、こうするんだよ」なんて会話をしながら練習したりと、入学前の親子のワクワクしたコミュニケーションの中で身につけていきます。
「宿題」という言葉だって幼稚園にも保育園にもないもの。「宿題」という言葉を知らないがゆえに、毎日の宿題を忘れてくる悪い子になってしまう可能性もあります。本当はただ「宿題」というコンセプトが理解できないだけかもしれないのに。
その他にも、「教科書」「ノート」「黒板」「先生」「生徒」「教室」「給食」「お道具箱」などなど、学校の中で使う日本語はお家や幼稚園、保育園での生活で出てこないものが多いので、こういった学校で使う日本語に慣れておくことも重要です。
<日本の学習の習慣を知る>
文化が違えば学習の習慣も国によって様々です。
宿題があまりなく、家で子どもに勉強をさせるという習慣がない親もいるかもしれません。そうすると、子どもが宿題をやっていなくても気づかないということになりかねません。
ですので、日本の学校の勉強のスタイルを親と子両方に伝える必要があります。予習、復習、宿題。そして、漢字の練習なんかも日本の学校にはつきものですね。
また、たとえ子どもの宿題の内容が読めなかったとしても、親が日本の学校では宿題が毎日のように出ることを知っていれば、子どもが宿題をちゃんとしているのか「確認」することはできます。そして、たとえ宿題を親に手伝ってもらえなかったとしても、親が気にかけてくれているという思いは子どもに伝わります。
ちなみに、親の出身国によっては、「日本の学校は宿題が少なくて、これだけの勉強で大丈夫なのか心配」なんて相談もあがったりします。
どちらにしろ、国によって学校とお家どちらにおいても勉強習慣が異なるので、日本の勉強習慣を知っておくことは大切です。
さらには日本の学校制度を長期的な目で知っておくことも重要。高校受験や大学受験、それぞれの進学率など。これを知らないでいると、いざ高校受験のときになって焦るということになりかねません。勉強の最初の一歩を歩み始める段階からそれを見据えて、子どもの勉強を真剣に考える姿勢を親に持ってもらうことも重要です。
就学前なので、「日本の学習の習慣を知る」というのは、子どもよりも親がまず身につけることで、子どもの学習を上手にリードできるようにすることがポイントになりそうですね。
心の準備
<日本語オンリーの環境>
学校に入ると、周りは日本語しか使われていません。同じ母語を話す友達もいるかもしれませんが、授業中はずっと日本語のシャワーを浴び続けます。
そのような環境に慣れるためにも、プレスクールは良いクッションになります。
母語を織り交ぜながら教えるなど柔軟に対応できるのはプレスクールだからこそ。学校ではそのような柔軟な対応難しいですよね。そして学校の教室では「日本語ができて当たり前」。だけれども、プレスクールでは「日本語ができなくて当たり前」という環境なので、「自分だけ出来ない」なんていう劣等感に苛まれることなく、日本語オンリーの学校文化に慣れていくことができます。
<日本の学校生活>
日本の学校生活は、外国人の親にとっては知らないことだらけです。
1日の時間割、休み時間や給食の時間、生徒が自分で教室のお掃除をすること、避難訓練に保護者会、家庭訪問。。。。etc
日本人にとってはいたって当たり前のこれらが、外国人の親にとっては全然当たり前なことではありません。なので子どもに「学校に入ったらこういうことがあるんだよ」という話をしてあげることもできません。
「学校に入ったらどういうことをするのか」という心構えを親に代わって作ってあげるのもプレスクールの役割です。
また、入学準備も一苦労です。
ランドセルって何?上履き?給食ぶくろ?道具箱?色鉛筆にクーピー?
揃えるものもいっぱいな上に、聞きなれない、見慣れないものばかり。さらには入学まえに準備する書類も沢山あります。
プレスクールはこういう親の疑問にも答える場にもなることができます。
以上、外国人向けのプレスクールの役割についてまとめてみました。
改めてまとめてみると、
小学校での教育を始めるにあたって、学校に入る前の準備がいかに大切か、そして、それが日本語を母語としない親にとってはとても難しいということがよくわかります。
また、子どもだけでなく、親に働きかけるということもとても大事そうですね。教育は学校だけでなく、家庭で担う部分も多いですからね。
ちなみに、家庭内で親の母語で育っている子どもたちは、日本では貴重なグローバル人材の原石。このプレスクールでうまく日本の学校生活のスタートを切ることができれば、将来は日本社会にとっても役立つ人材になること間違いなし。なのでこのプレスクールは外国人家庭だけでなく、日本社会全体にとっても役にたつものなのです。
海外で日本語で子育てしている人は、「日本」、「日本語」という部分を居住地の国と言葉に置き換えると、現地で子どもが小学校にあがるまえに準備をしておきたいことのヒントになると思います。
<参考資料>
愛知県 プレスクール実施マニュアル (http://www.pref.aichi.jp/0000028953.html)