祝!ベイカー茉秋・金メダル!ハーフだから強いわけじゃない。柔道で活躍する多様な”日本人”
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ベイカー茉秋選手、金メダル獲得おめでとう!
柔道90kg級のベイカー茉秋選手がみごとに金メダルを獲得しましたね!
ハーフの選手の活躍はやっぱりなんだか嬉しい。
ハーフの選手があたりまえに日本を代表して、そして金メダルまで獲得。
日本のお家芸の柔道でも90kg級での金は初らしい。
しかも勝つからには一本狙いっていう精神も柔道好きにはたまらない。
見る専門ですが、私、柔道好きなんです。おそらく柔道3段の父の影響かな。
ハーフの選手の活躍はあたりまえ?
ベイカー茉秋選手に限らず、最近はハーフの若いスポーツ選手の活躍が目立ってきました。
リオ五輪でも陸上のケンブリッジ飛鳥選手にジュリアンウォルシュ選手、テニスではダニエル太郎選手など、ハーフの選手が日本代表として出場しています。
ハーフの人が日本代表として活躍すると聞こえてくるのが、ハーフの人は「日本人」とは体の作りが違うから「日本人」よりスポーツで秀でるのはあたりまえというような声。
そうやって、ハーフの人の活躍はなかなか本人の努力と結びつけてもらえなかったりします。
ベイカー選手もそう言った声に対して、
「ハーフだから強いわけじゃなく、それだけの努力をしたから今の僕がいる」と発言しています。
(毎日新聞2016/8/10 http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160810/dde/041/050/059000c)
ハーフだからといって、誰でもがスポーツが得意なわけではないし、日本のトップを争うレベルになるにはどんなに恵まれた体格の人だとしても努力なしでなれるものではありません。
それは「日本人」でも同じことではないでしょうか。
スポーツが得意な「日本人」もいればそうでない人もいる。体格が良かったからといって努力せずに日本のトップレベルまで上がれるわけではない。
もし本当にハーフの人は体格に恵まれていて、それだけで日本代表になれるのであれば、今頃はもっとハーフの選手がいてもおかしくないかも。毎年2万人前後のハーフの子が生まれているわけだから。
(といってもこの2万人には東アジアの国のハーフも含まれるのでいわゆる「体格が良い」というステレオタイプに入らないハーフも含まれるけど)
柔道は相変わらず「日本人」も強い
さて、スポーツにおいては「日本人」の体格は不利なのでしょうか。
少なくとも、ベイカー選手が戦う柔道においては簡単にそうとは言い切れない気がします。
柔道は、最近では日本以外の国の選手の活躍が目立っていると言われています。
特に前回のロンドンオリンピックでは日本代表の金メダルは女子の1つだけ、男子は金メダル一つも取れないという大敗を喫しました。(と言ってもメダルを取ってるんですけどね)
しかし、今回のリオ五輪では金3つ、銀1つ、銅8つの計12個のメダルを獲得。
男子は史上初めて全階級でのメダル獲得を成し遂げ、まだまだやっぱり日本の柔道は強いようです。
また、ロンドンでの大敗はあるものの、長年日本人が国際大会で活躍してきたことを考えると柔道においては必ずしも日本的な体格が不利になるなんて言えなさそう。
ましてや日本発祥のスポーツなわけで。
そうなると、ベーカー選手に「ハーフだから強い」というのはやっぱり的外れな気がします。
さらには、柔道では日本代表以外にも、他の国の代表として「日本人」が活躍していたりもするので、やっぱり「日本人」が不利というのはどうなんでしょうと思わされます。
オリンピック柔道に出場する多様な「日本人」と日本出身者
柔道は今でこそオリンピックの競技にもなる国際スポーツとして発展していますが、もともとは、日本発祥の武道です。
柔道の歴史は日本が世界で一番長く、必然的に柔道で活躍する選手には何かしらの形で日本につながる選手が多い。
そして、国際的なスポーツといえど、いろんな「日本人」、日本にルーツのある選手が他の国の代表としてオリンピックに出場しいます。日本ルーツの選手や日系の人など、日本の多様性や、日本の移民の歴史などが垣間見えるのが面白いなと、今回のリオオリンピック柔道を見ていて改めて思いました。
では、どんな多様な「日本人」、日本ルーツの柔道選手がオリンピックに出場しているのか、少し紹介してみたいと思います。
日本代表のハーフ:ベイカー茉秋選手
まずは、日本代表の多様な日本人、ベイカー茉秋選手。
日本代表として90kg級でみごとに優勝をはたしました。
彼は、お母さんが日本国籍で、お父さんがアメリカ国籍のいわゆるハーフの日本人。
東京育ちで、小学1年生のときに近所にあった柔道の総本山である講道館で柔道をはじめたそうです。高校生のときには、1日に7食の食事とウェイトトレーニングで66kg級から90kg級にまで階級をあげるという努力家。
ハーフだからではなく、努力したから今があるという彼の言葉も納得ですね。
フィリピン代表のハーフ:中野亨道選手
続いては、フィリピン代表としてリオオリンピックに出場した「日本人」、中野亨道選手。
中野選手は日本人のお父さんとフィリピン人のお母さんを持つ日本育ちのハーフ。
日本育たちのハーフという意味ではベーカー選手と似た背景を持っていますね。でも彼は日本代表ではなく、フィリピン代表としてリオオリンピックに出場しています。
日本育ちのため、フィリピン代表ですが、日本語しか話せないそうです。
その国の代表になるのには、国籍を持っていれば、言語力は関係ないですからね。
出身は東日本大震災で被災した岩手県の野田村。
そこで小学3年生の時に柔道場に通いはじめ、現在まで日本の中高、大学、大学院で柔道を続けているそうです。現在は横浜国立大学大学院に所属。
育ちも日本。柔道人生も完全に日本で作り上げてきたようです。
リオ五輪は、出場を辞退した選手が出たため、急遽8月3日に81kg級のフィリピン代表として出場が決まったそうです。フィリピンからは13人目のリオ五輪出場者。
日本は柔道の出場選手だけで14人いるけれども、フィリピンは全種目をとおして13人。
オリンピックなど国際スポーツ大会は国の経済格差が顕著に出場人数に反映されます。
お金があればそれだけ出場資格に到達する選手を育てることができるので。
なので国によっては、他国育ちの選手であろうと一人でも多く出場の可能性のある選手が出てくるのは嬉しいものなのではないでしょうか。
(参照記事)
YOMIURI ONLINE 2016/08/07 http://www.yomiuri.co.jp/local/iwate/news/20160806-OYTNT50099.html
YOMIURI ONLINE 2016/08/11 http://www.yomiuri.co.jp/local/iwate/news/20160810-OYTNT50109.html
RAPPLER 2016/0804 http://www.rappler.com/sports/specials/olympics/141908-kodo-nakano-compete-olympics
韓国代表の在日コリアン3世:アン・チャンリム(安昌林)選手
73kg級の韓国代表のアン・チャンリム選手は京都生まれの在日コリアン3世。
韓国代表であるけれども、日本生まれ、日本育ちの選手です。
京都で中学まで過ごしたのち、桐蔭学園高校、筑波大学と柔道の名門校に進み、大学の途中で韓国の体育大学に転入。
国籍が日本ではないことから、日本では出場できる大会も限られるため、大学の途中で韓国の体育大学に転入。そこからは韓国で稽古を積んだ、日韓両方の柔道界を経験してきた選手。
なんとオリンピック前の73kg級の国際ランキングでは1位!
とうぜん、 国際ランキングで1位の選手なので、日本国籍を取得しても十分に日本の代表入りする可能性のあった選手。日本時代に日本国籍取得を勧められることもあったものの、子どもの頃からの夢である韓国代表を目指すことを選んだそうです。
文化もしきたりも違う韓国柔道界でキャリアを積み直すのは、そのまま慣れた日本の柔道界に残るよりも大変なことなはずなのに、見事にリオ五輪の代表に選ばれ、韓国期待の選手にまでなりました。
アン・チャンリム選手のような在日コリアンを含め、日本で育つ外国籍でスポーツで活躍する学生や若者にとって、活躍すればするほど、国籍というのが大きな障壁になるんですね。一緒に練習してきた仲間と同じように日本代表を目指すには、国籍を変えるという自分のアイデンティティの根幹に関わる選択をしなくてはいけないし、国籍国で出場するには、その国の環境や言葉などの障壁もあり、それまでいた日本と同じように実力を発揮できるとは限らない。
国対抗のの国際大会ゆえの障壁でしょうか。
(参照記事)
YAHOOニュース 2016/08/08 http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinmukoeng/20160808-00060844/
朝鮮日報 2016/08/10 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/08/10/2016081001041.html
毎日新聞 2016/08/06 http://mainichi.jp/articles/20160807/k00/00m/050/020000c
日本人移民の歴史が垣間見える、日系人選手
そして、最後に日系人柔道家。
今回のリオオリンピックではブラジル代表として2人の日系の選手が出場しています。
1人は60kg級のフェリペ・キタダイ選手。もう1人が66kg級のチャールズ・チバナ選手。
そして、ブラジル柔道代表を率いるルイス・シノハラ監督も日系人。
ブラジルは世界で一番大きな日系人社会のある国。1908年に初めて集団で日本人移民が渡ってから今年で108年。今では160万人の日系人がブラジルにはいます。
柔道は日系移民とともにブラジルに渡り、世代をつないで受け継がれてきたました。
チバナ選手は沖縄県系最強の柔道一家といわれる家族に生まれた日系3世です。
同じくシノハラ監督も3世。お父さんのマサオ・シノハラ氏(日系2世、柔道9段)もロス五輪でブラジル代表の監督を務めており、親子2代でブラジル柔道界を率いています。
ちなみに、ブラジルといったら柔道よりもブラジリアン柔術を思い浮かべる人も多いかと思いますが、このブラジリアン柔術も、日本人移民が持ってきた柔道が起源にあるんですよ。
そして、アメリカも日系移民の多い国の一つ。
リオ五輪では日系選手がみあたらないのですが、過去にはやはりアメリカ柔道代表で日系人が活躍しています。
その1人が、北京オリンピックでアメリカ代表として出場した、サヤカ・マツモト選手。
彼女は日本生まれのカリフォルニア育ち。ハワイ出身の日系アメリカ人のお父さんと日本出身のお母さんを両親に持ち、柔道指導者である父、デイビッド・マツモト氏の元で柔道をはじめました。そして父であるデイビッド・マツモト氏もアテネ五輪で柔道アメリカ代表の総監督を務めるなど、アメリカの柔道界に貢献してきた日系人。
そして、サヤカ・マツモト選手の北京オリンピックの初戦の対戦相手は、なんとあの谷亮子選手!
アメリカ対日本の「日本人」対決が行われていたのです。
(参照記事)
ニッケイ新聞 2016/08/10 http://www.nikkeyshimbun.jp/2016/160810-71colonia.html
ニッケイ新聞 2016/03/17 http://www.nikkeyshimbun.jp/2016/160317-71colonia.html
毎日新聞 2016/08/03 http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160804/ddm/041/050/151000c
毎日新聞 2016/04/27 http://mainichi.jp/articles/20160427/k00/00e/030/268000c
このように、柔道の世界では、多様な「日本人」が各国代表として活躍しています。
外国出身者や、ハーフなど他国をルーツに持つ人が日本代表になると、違和感を覚える人がいたりしますが、実は逆のパターンで日本出身者、日本にルーツを持つ人が他国代表になるケースもあるんですね。
あくまでも、ある国を代表するのに必要な条件は国籍ですから。
ハーフだったり、他国出身だからといって、日本代表になることを疑問に持たれたら、
我が家みたいなグローバル家族にとっては、「じゃあ、どこの国代表したらいいの!?(怒)」って感じです(笑)
さて、オリンピックを見ていたら、なんだかやっぱり我が子には柔道をやらせたくなってきました。実は、私の父だけでなく、夫も、夫の両親も柔道経験者。しかも夫はアメリカ代表監督もつとめたデイビッド・マツモト氏の道場に通っていたんです。
案外、うちの子は柔道家に囲まれているよう。
目指すは、アメリカ代表?日本代表?はたまた、インド?中国?
どこになるのでしょうか。
えりざ