《ハーフコラム》蓮舫さんの騒動から考える日本の二重国籍

 

ハーフの話題に事欠かないこのごろでしたが、オリンピックのハーフ選手の活躍、吉川プリアンカさんのミス・ワールド日本代表への選出に続いて、大きな話題になっていたのが、民進党代表選での蓮舫さんの国籍に関する話題。

 

蓮舫さんの二重国籍を問題視する人たちの言動はエスカレートして、もはや、二重国籍者(そして二重国籍になりやすいハーフの人)が犯罪者かのように扱われているよう。

そして、多くの人が日本の二重国籍に関する法律や実態をちゃんと理解しないままに、
「二重国籍=悪い事」と思い込んでいるのではないかと感じました。

二重国籍は家族が国をまたいでバラバラに生活するグローバル家族にとっては切実な問題なのに、このままでは、「二重国籍者は危険」というような安易な思い込みによる法改正ができかねないし、魔女狩りのようなことも起こりかねないので心配です。すでに、自民党のハーフの議員、小野田きみ議員が釈明に追われていますね。

二重国籍は決してハーフだけの問題でもないのに、二重国籍の可能性がわかりやすいハーフの人だけが安易に疑いの目で見られてしまっているのも、ある種の人種差別のように感じます。


そんなわけで、今回は、蓮舫さんの国籍問題と、二重国籍について整理したいと思います。

 

日本の国籍法と二重国籍

 

二重国籍については、国籍法の第14条〜16条にかけて、「国籍の選択」という項目で書かれています。

(※2つ以上の国の国籍を持っている人もいるので「重国籍」とした方が正しいのですが、このブログでは聞き慣れた「二重国籍」という言葉で書きます)

 

国籍法第14条〜16条:国籍の選択

以下、国籍法の第14条〜16条の全文です。

(国籍の選択)
   第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有すること
    となつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、そ
    の時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国
    籍を選択しなければならない。
   2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の
    定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨
    の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。
   第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期
    限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択を
    すべきことを催告することができる。
   2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができない
    ときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるとき
    は、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における
    催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。
   3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日
    本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。
    ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつて
    その期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選
    択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この
    限りでない。
   第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければな
    らない。
   2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないもの
    が自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であ
    つても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就
    任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対
    し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
   3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければな
    らない。
   4 第二項の宣告は、官報に告示してしなければならない。
   5 第二項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。

(法務省ウェブサイト国籍法全文→http://www.moj.go.jp/MINJI/kokusekiho.html

 

必要なのは国籍の選択宣言

さて、上記の国籍法を読んでみると、

「外国籍を有する日本国民は……いずれかの国籍を選択しなくてはならない」
(第14条1項)

とあります。つまり、外国籍を有する日本国民=二重国籍者は「国籍の選択」が必要ということです。選択の期限は22歳です(20歳以降に二重国籍になった場合は2年以内)。

では、「国籍の選択」はどのような手続きなのでしょうか?
その方法は2つあります。(14条2項)

1つめ
外国の国籍を離脱して、その証明を提出する方法。

2つめ。
日本国籍を選択して、外国籍を放棄する宣言=「選択の宣言」をする方法。

1つめの方法だと「日本国籍を選択する」ために、先に外国籍を放棄する必要がありますが、2つめの方法であれば「日本国籍を選択する」時点では外国籍を放棄している必要はなく、外国籍を放棄する意思を示せばOKということです。

 

外国籍放棄は努力義務

そして注目してほしいのがその後、16条。
「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」

つまり、上記の2つ目の方法を選んで日本国籍を選択し、外国籍を放棄する宣言をした場合の、外国籍の放棄の手続きについては「努力」すればよく、必ず離脱しなくてはならないというわけではありません。

外国籍離脱の「手続き」の努力とは書いていないので、何を持って「外国籍離脱の努力」とみなすのかは曖昧ですね。国籍を失うにあたっての心の整理も努力と言えそう。

 

つまりは二重国籍は実質認められている

というわけで、二重国籍の状態というのは現状では実質的に認められているという様に読むことができます。

さらに、ここに「必要」と書かれている、22歳までにしなくてはいけない「国籍の選択」についても、しなかったところで罰則のあるものではなく、また、選択をしなかった人には催告がくる(第15条)と上の国籍法には書かれていますが、実際のところ、催告すら出されたことはないそうです。

ということは、二重国籍であったとしても催告すら来ないので、22歳になっても、誰かが知らせてくれるわけでもありません。なので、自らこの国籍法に精通していないと「国籍の選択」すらせずにスルーしてしまうこともありそうですね。

こんなにも騒がれているけれども、そもそも日本の二重国籍の状況というのは、こんなにもゆる〜いものなんです。

唯一、注意が必要だとすれば、日本の「国籍の選択」をした上で、日本以外の国籍国の公務員になることぐらいでしょうか。(16条2項)

 

二重国籍の取り締まりなんてできるのか?

なんでこんなにも二重国籍の法律がゆる〜いものになっているかというと、二重国籍の日本以外の国籍については日本の管轄外。他国の法律の元にあるので、日本がどうこうできるのもではないのではないでしょうか。

強制的に他国の国籍を日本国が剥奪させることなんて少し考えれば無理だろうと想像できますよね。それに、国籍に関する法律は国それぞれで、そう簡単に国籍を離脱させてくれない国もあります。そうした場合、いくら本人が日本国籍を選ぶ意思があったとしても、もう一方の国の国籍を放棄することは難しく、二重国籍のままになってしまうというケースもあります。

二重国籍は他国の法律と日本の法律の間にあるので、日本が「二重国籍禁止!」としたところで、その影響力は限界があるのです。

さらには、日本以外の国籍についてを日本が把握しうる制度があるわけもないので、国としては誰が二重国籍なのかを完全に把握することはできません。国際結婚間の子どもや、出生地主義をとる国で生まれた子どもが二重国籍を持っているだろうと推測することはできたとしても、必ずしもその全員が二重国籍を保持しているとも限らず、あくまでも推測以上にはなりません。

そのような状態では確実に二重国籍者を見出して催告することもできないので、現状は二重国籍者への国籍選択の催告すらされていないのです。

あくまでも推測の状態で、例えば、国際結婚の間の子どもだからと言って催告することは、出自を理由とした差別にもなりかねませんしね。。。また、確実に二重国籍者を把握して催告をするシステムを作ろうと思ったら、膨大な予算が必要になるのではないでしょうか。。。

 

国籍が無いことを証明するのは難しい

さて、日本が他国の国籍を把握するのは難しいので、二重国籍を取り締まるのが無理どころか催告すら出していない現状ですが、日本が国民の二重国籍状態を把握するのが無理なのと同じように、自分が保持している国籍を必ずしも全ての人が把握しているとは言えないのではないでしょうか。

両親ともに日本人で、過去何世代にわたって日本以外の国に住んだことのないというような人には想像しがたいかもしれませんが、、、

例えば、両親のどちらかが外国人だった場合、両親も自分自身も日本以外の国籍を申請していない/付与されていないと思っていたにも限らず、実はその国の国民の子どもには自動的に国籍が付与されるようなシステムになっていた場合。

例えば、両親のどちらかが二重国籍で、そのことを自分(子ども)は把握しておらず、その二重国籍国の国籍が自動的に子どもにも付与されていた場合。

例えば、出生地主義をとる国で出生し、日本への出生届を提出したから自分は日本国籍だけ取得したと思い込んでいた場合。

などなど、二重国籍を把握せずに二重国籍状態にあるという可能性は十分考えられます。

そして、さらには、自分が国籍を保持していると把握していない国の国籍がないことを証明するのはなかなか難しいのではないでしょうか。

想像してみてください、突然、
「あなたが「○○国」の国籍を持っていないことを証明してください」
と求められたらどうしますか?

きっとその国の大使館へ行くのでしょうが、そこで何も根拠もなく
「私があなたの国の国民でないことを確かめたいのですが。。。」
何て聞いたら、かなり不審者だと思われることでしょう。

蓮舫さんの場合はお父さんが台湾人で、本人もある年齢までは台湾籍を持っていたという記憶があったから、現在の台湾籍のステータスを確認することができたようですが、それでも無いと思っていた国籍のせいか証明するのにはそれなりに日数を要していましたね。

本人が国籍があると把握していて、それを証明する書類(パスポートや戸籍など)をもってしてようやく国籍というのは証明してもらえるけれども、そういうものが無い中で国籍を証明するというのは案外難しいのではないかなと思います。

 

※国籍法を専門とする大学教授の話が載っているので、こちらの記事も参考にしてみてください。SYNODOS 「国籍」とは何か?――蓮舫議員をめぐる議論をきっかけに改めて考える 奥田安弘×荻上チキ(2016.09.12)  (http://synodos.jp/politics/17892/2)

※ (追記10/31) こちらの記事もご参考に。
Daily Portal Z 「アメリカ人をやめるかどうかの面談に行ってき話」  (http://portal.nifty.com/kiji/161031197945_1.htm
)

実際に法務省に問い合わせた回答が記載されています。
また、アメリカの国籍離脱についても大使館の面談で聞いた内容も
まとまっています。
24万円もかかるアメリカ国籍離脱、個人で努力するには随分ハードルの高い金額ですね。

 

蓮舫さんのケースについて

 

そもそも…女性差別的な国籍法の問題

蓮舫さんの場合、お母さんが日本国籍でお父さんが台湾国籍なので、今の国籍法であれば生まれた時点で日本国籍を持っているはずです。

しかし、蓮舫さんが生まれた当時の日本の国籍法は父系血統主義をとっていました。
父親が日本国籍の場合のみ子どもに日本国籍が与えられ、父親が日本国籍でない場合はいくら日本人の母親から生まれたとしても、日本国籍が得られないという法律でした。

今では信じられないような、とっても女性差別的な法律。。。

そのため、蓮舫さんは母親が日本人であるにも変わらず、生まれた当初は台湾国籍しか持っていなかったのです。

彼女の「生まれたときから日本人」という発言には、生まれたときから日本人の子どもであるという思いが含まれているのでしょう。

そもそも彼女が生まれたときに日本国籍がなかったののは、彼女や彼女の家族の問題ではなく、日本の当時の国籍法が女性を差別した父系血統主義をとっていたのが問題なのです。

この国籍法が改正されて、父母両系の血統主義になったのは1984年。たった30年ほど前の話なのです。

ちなみにこの国籍法改正に尽力したのは、女性初の野党第一党の党首だった土井たか子さん。その土井さんに続いて女性の野党第一党党首になった蓮舫さんがこの国籍法改正のおかげで日本国籍を取得し、日本の国会議員になれているということに不思議な縁を感じます。

 

そもそも…蓮舫さんは法律に反してはいないのでは?

蓮舫さんのケースは、さっきも書いた、自分が二重国籍であることに気づかなかったケース。

1984年に法改正がされた時に、手続きをして日本国籍を取得。
それと同時に父親と一緒に台湾の大使館に当たる場所に手続きに行っています。
本人は台湾語がわからなかったため、父親のそこでの手続きをもって台湾籍離脱が済み、自分は日本国籍のみになったと思っていたようです。

つまり、本人は二重国籍であると認識していなかったケースになります。
そうすると、現状、「国籍の選択」をしていなかったとしても国から催告がくることは無いので、本人には自分が二重国籍の状態にあることは知る由がありませんし、「国籍の選択」のしようがありません。

なので、とても蓮舫さんに非があるとは思えません。

さらには、今回の件で台湾籍を離脱して届けを出したところ、台湾は日本に国家として認められていないため離脱の届けは受理されなかったとか。となると、そもそも蓮舫さんが台湾に籍が残っていたことは「二重国籍」とは捉えられないのではないでしょうか。

 

そもそも…国会議員、党首になるのに二重国籍の制限はない


今回、蓮舫さんは民進党の党首選に出ることで二重国籍の疑惑をかけられ、一連の騒動となりましたが、そもそも国会議員や、党首、さらには総理大臣になるのに二重国籍であることによる制限はないのです。

今までは普通に、何も疑問に持たれることもなく、国会議員として活躍してきたにもかかわらず、外国にルーツのある人が党首選という、ちょっと上の立場にチャレンジしようとしたことで、党首になるのに関係ないことにもかかわらず、二重国籍やルーツについて疑問や批判をされるというのは、出自を理由とした不必要な追求であり、あからさまな差別になのではないでしょうか。

ちなみに、国会議員や党首、総理大臣には二重国籍の制限はありませんが、外務省関連の人事においては二重国籍者はなれないという決まりが設けられています。

 


以上。

日本の二重国籍の現状と、蓮舫さんのケースについて整理してみました。

ところで、蓮舫さんの国籍のことを批判した記事の中で、「蓮舫」という名前や、さらにはお子さんの名前が日本的でないことを批判しているものがあったけれども、これはもはやただの言いがかりでしかないですよね。

日本人でありながら、自分のルーツを大事にすることは矛盾するものではないし、彼女の場合、その名前で国会議員に当選しているのだから、台湾のルーツを知った上で国民が選んだ人なのです。

それを批判するってどういうことなんでしょ。。。。

さらに言うと、蓮舫さんの場合お父さんは日本の旧植民地であった台湾の出身。
内地、外地の違いはあれど、日本だったんですよね。

 

オリンピックでの活躍でもわかるように、いろんなルーツの日本人が増えている現在の日本の中で、今回の騒動はとっても残念なものでした。

都合よく私たち多様な日本人を利用するのではなく、、、しっかり現実を見つめて、私たちのような多様な日本人が日本人として活躍できる社会、国になっていくことを願っています。

えりざ